子どもから大人まで幅広い世代に支持される自然番組『ダーウィンが来た!』。12月12日(日)夜7時半からの放送では、これまでにない珠玉の映像で天売島を紹介することができました。どんな制作意図があったのか、裏話をちょっとだけご紹介しましょう。
今回の番組制作の力点は、ウトウの帰巣シーンの撮影に尽きるといえます。日没とともに始まるウトウ100万羽の大帰巣は、その場に立った人しかわからないド迫力ですよね。それを見たことのない人に伝えようとしても、なかなか難しいものなのです。写真や映像でどう表現すれば、その場で自分が感じた臨場感を伝えられるのか。私にとって、それは長年にわたる大きな課題でした。ところが今回の番組は、その壁を見事に打ち破ったといっていいでしょう。宙を舞うウトウの圧倒的な数、そこらじゅうではじまる不器用な着地など、鳥の持ち味に周囲の絶景を絡めて、これまでなし得なかった映像表現ができました。撮影は自分とNHK取材班の合わせ技です。映像のグレードに加え、ダーウィンならでわのテンポのいい映像展開は、見る者を引きつけて離さないキレのよさだったと思います。こちらは編集マンの力量ですね。
まさか自分が映像を撮るとは思ってなかったし、ましてや4K映像など扱うことは絶対ないと断言していました。ところがNHKの看板自然番組をつくってしまったのですから、自分でも驚いています。これは技術革新による激変による影響で、プロ並みの映像が小さな写真機材で撮れる時代になった恩恵です。伝えたい内容によっては、静止画より動画で見せた方がわかりやすい場合があり、積極的に動画撮影を取り入れるようになりました。いつしか1時間番組『ワイルドライフ』制作を考えはじめ、最初は「夢」だったのが明確な「目標」へと変わりました。コロナ禍で海外など遠方取材ができなくなった分、天売島の撮影に没頭できたことがプラスになりました。
写真家は一人撮影、ワンオペが基本です。映像は数人チームでの撮影スタイルが多いようです。野生生物の撮影は一人の方が有利なので、私はこれからも小型で優秀な機材を厳選して、ワンオペで静止画と動画の両方を撮影していくでしょう。少なくともあと5年はある意味過酷な最前線の現場に立ちたい、できれば10年……などと考えています。
「海」「海鳥」「海洋生物」などに地球規模で迫る「OCEAN BIRD プロジェクト」を、コロナ禍による遅れを取り戻し、何としても形にしたいのです。