眼の色を変えるカモメ 「瞬撮『真』世界」Vol.1-2

毎年3月ごろに決まって、2階の仕事場の窓越しに、沖合に出現するカモメ類の塊を見ていた。私は興味津々なのだが、シケばかりが続くこの時期であり、自分の小さなボートで現場へ近づくのは無理だった。しかし、今年の海の状況は違った。比較的静かな海に恵まれる日もあって、チャンス到来となればいつでもボートを走らせる構えでいた。

そして、ついにそのときが来たのである。3月25日の早朝、私はカモメ類の塊を目指して、一直線にボートを走らせていた。静かに見える海も陸が遠ざかるにつれ、うねりや小さな波が気になってくる。15分ほど走り続けて数km沖合まで出ると、海面にできた筋状のカモメ類の群れのすきまにボートを割り込ませた。停泊させたボートはまるで木の葉のようで、不安定にゆらゆら揺れて漂う。見回すと、数千単位ともみられるカモメたちが延々と南に伸びていた。オオセグロカモメ、ウミネコ、ミツユビカモメ、カモメなどの混群だ。それらは風上を向いて密集して浮かび、くちばしを必死に水面に刺し入れて何かをついばんでいる。足でこぎながら前へ前へと前進していて、ボートとの距離がゆっくり詰まって20mくらいになったときだった。

「えぇっ、これはいったい!」

太陽光を飲み込む濃紺の海中に、カモメの方向から巨大な白い影がゆっくり現れたのだ。それがボートの下をくぐり抜け、途切れることを知らない。動物プランクトンのオキアミの大群である。カモメたちはこの群れを追って群がっていたのだ。

オキアミを追うカモメの先頭が、ボートの目前まで来るとパッと舞い上がった。それをきっかけに周囲や後方に連なっていたカモメが一斉に飛び立った。水音、羽音、鳴き声で一瞬にして騒々しくなり、獲物を追いかける眼の色を変えたカモメたちが私の頭上を切れ間なく飛び越えた。そして、オキアミの群れの先頭に舞い降りていく。

「このオキアミはどれほどの群れなのか」。私は海のなかの世界へと想像を膨らませていた。