2月27日、私は北海道の海岸線から約30km離れた日本海に、小さなボートを浮かべていた。厳冬だというのにどこまでも静かな海が広がり、寒気のせいで空気は澄み切って天塩山地の真冬の山並みがくっきり見えるのだ。この季節としては奇跡的な静寂が広がっている。その正反対を振り向くと、3kmほど先に島影があった。そう、私の本拠地、天売島である。
私はこの日、迷わずに天売島からボートを走らせた。沖合に浮かぶカモメの群れが見えたのだ。「何かしら海中の食べ物がカモメたちを惹きつけているのだろう」。そう思った私は、その正体を確かめようと針路をカモメに取った。カモメたちまであと数百メートルというとき、鳥たちが急にざわついて飛び立ったその直後に、海面の一点に頭から刺さりはじめた。
群れのなかに、真冬には見られなかったウミネコがたくさんいる。故郷の天売島で繁殖するために帰ってきた一群に違いない。オオセグロカモメ、ヒメウもいる。頭から飛び込んで小魚をくわえたウミネコがいた。それはマイワシのようであり、魚群が海面近くにいるのだ。こうなるとカモメたちは我先にと大騒ぎし、魚群は散り散りとなって万事休すとなる。
この日、春を思わせる太陽が海を輝かせ、ウミネコたちが伸びやかな声を響かせていた。これは春への序章がほんの少しはじまったに過ぎない。天売島にもうすぐ海鳥たちの繁殖のときが訪れる。春は海からやってくる。